2023年7月14日に公開されたジブリ映画最新作、宮崎駿監督作品、『君たちはどう生きるか』の感想・レビューです。内容的にネタバレも含みますので注意してください。
個人的な感想ですが、特に序盤の展開は、広告などほぼされていなかった故に、予想のつかない展開を楽しめた部分もあるので、何も知らないで映画を見に行くとより楽しめるかもしれません。
君たちはどう生きるか
ファンタジーと現実で揺さぶられる前半
個人的に、面白かったのは導入部分。最初の戦争パート母親を失うシーンから田舎へ疎開の流れを見ているうちは、もしかして『火垂るの墓』的な映画なのか?と考える。しかし、そこから独特な家の様子やちょっと不気味にも思える老人たち、そして姿を見せる入り口が封じられた塔。このあたりを見ていると『千と千尋の神隠し』的なファンタジー映画なのか?と考えが揺らぐ。
さらにそこから揺さぶりをかけてくるのがポスターやイメージイラストとして描かれている『青鷺』。とてもリアルな鳥の描写で描かれた彼が、語り掛けてきたり、鳥に似つかわしくない歯を持った姿がうつることで、やはりファンタジーなのか?と再び思う。しかし、この時は、頭に石を打ち付けていたため、単なる幻覚なのでは?と少し揺さぶられる。
ファンタジーと現実路線の二つは、ジブリ映画としてはどちらもありうる内容。これに関しては、事前に一切情報がなかったから、どういう風に展開してくんだ?考えながら映画を楽しめました。
メインビジュアルの『青鷺』の描かれ方も独特で、鳥の様で正体を隠している姿も予想でき、これも最初の展開を謎めいたものにするのに一役買っていたように思えます。
結構長い導入パートでしたが、個人的にはこのあたりが一番楽しめたかも。
個人的には、たばこで買収されるおばあちゃんがいいキャラしていて、いやいやながらも塔に一緒に入ってしまったときは、この人がパートナーなの!?と意外さからちょっとテンション上がりましたが、一緒に冒険したのは若い頃の姿になってしまいちょっと残念でした。
親と子の関係
メインのお話は、戦争にて死んでしまった母親との精神的な別れ、そして、新しい継母を認めるまでの話といった感じでした。
本作の主人公、眞人は自ら石で頭を打ちけがをしたのも、父と義母への構ってほしさによる部分も大きかったのではないでしょうか。特に、既に義母にはもう一人の命が宿っており、自分の存在や母のことが忘れられるのではないかという漠然とした不安もあったように思える。
自分が燃えていく母親を夢に見る前で、父親と、義母がいちゃついているのを見てしまい、悪いものを見たかのようにひっそりと部屋に戻る。こういった描写は、うまく義母を認められない感情を描いていたように思えます。
人として、良い人であることは理解している、しかし、それを認められない。その関係を埋める役割を果たしたのがファンタジーの世界。義母が攫われてしまったことで、その人の大切さを改めて知ることとなったのかなと思いました。
少し笑ったのが、主人公が木刀をもって青鷺と対峙するシーンと、父が眞人を探しに旅立つ際刀を腰に差すシーンがそっくりだったこと。割と竹を割ったような性格をしている眞人でしたが、このあたり父親譲りなんだなと血のつながりの強さを感じるシーンでした。
さすがジブリの映像
序盤の火災の中を眞人が病院へ駆け抜けるシーンは、眞人をピックアップしたように描く中でも、周辺の人物も生き生きと動いておりすごかったです。
おばあちゃんたちが家の中を歩いていくシーンは、それぞれ特徴的な動きで描かれている。さらに通路奥にいるおじいちゃんがひっそりといるところにちょこっとおばあちゃんが反応するなど、細かい部分も面白かった。
青鷺の鳥としての描写も、とてもリアルさを感じる。魚を捕らえて丸呑みするあたりは特に生き生きと動いていてすごかったです。
現実を生きるべきというメッセージ
大叔父の理想の世界を継がずに、戦争で荒れるのがわかりきっている醜い外の世界で生きることを選んだ眞人。本を読み自分の世界に閉じこもっていただろう大叔父と違い、父親や、世話をしてくれるおばあちゃんが本当に自分を心配していてくれること。そして、最初は敵だと思っていた青鷺が共に旅する上で友と呼べる存在となった事。そういった他人の大切さも知っていました。だからこそ、大叔父の理想の世界を継がずに外に出ることを選べたのかなと思う。
最終的に、大叔父の世界は、自らが内側に取り込んだオウムの手によって壊されてしまいます。狭い理想の世界はいつか壊れてしまう。だから、他人と関わり広い世界で生きるべき、というメッセージのようなものを感じました。
今作の評価
評価:
映像は文句なしに素晴らしく、話として面白かった。特に冒頭から前半にかけては、事前情報が一切なかったこともあり、この後どうなるんだという感覚で非常にワクワクしました。ただ実際にファンタジー的な要素が始まってみると、どこか抽象的、夢見心地とでもいうようなフワフワとした感覚で話が進んでいき少し淡々と話が進みすぎたかなという印象を受けた。
エンターテインメントに振り切った映画というわけではないので、結構好みがわかれそうな作品だと思います。
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