映画 不思議の国でアリスと
2025年8月29日に上映開始、ルイス・キャロルの小説『不思議の国のアリス』を原作に、日本国内では初となる劇場アニメ化が行われた作品です。
謎や伏線を求めるものではない
本作は壮大な謎や、伏線、隠された真実を求めて見にいくべき作品ではない。これを最初に書くのは、自分がそういう面を求めて見に行ったが故に、少し肩透かしを食らったという点も確実にあったからです。。
本作では、冒頭から思わせぶりな要素があったり、あえて現代風に描かれたアリスの世界という事で、何かあるのかなという風につい思ってしまう部分があります。しかし、作中でそういった部分は当たり前の物として話が進み、特別触れられることはなく、あくまで令和ナイズされた不思議の国のアリスが淡々と描かれていく。
就活がうまくいかないリセが主人公として登場しますが、あくまで不思議の国のアリスの世界に触れることで、祖母との思い出に触れることで再び前を向くというといった感じの成長を描くお話こそベースにありますが、それはあくまでりせがアリスの世界に触れていく理由付け。
作品全体通しての大きな謎や、伏線、隠された真実といった要素はなくシンプルに不思議の国のアリスの世界に触れる作品となっているので、そういう意味でのトーリー性を求めて見に行く作品ではないという点だけは意識しておかないと少し肩透かしを食らう人もいそうだなという印象を受けました。
令和ナイズされた不思議の国のアリス
そんな本作ですが、単に不思議の国のアリスを現在のアニメ制作技術でアニメ化しよう、というだけではなく、原作をベースにしつつも、現代風な要素を加味して再現・再構築した作品となっています。
青虫は、インフルエンサーになっていたり、時計ウサギは、時計ではなくスマートフォンとパソコンを持っていたりと色々と翻案された内容となっています。そして、ある意味その中で一番大きい変化となっているのは、そのアリスの世界自体もXRによりりせの祖母により作られたという事。そういう点から考えるとある意味で今回の作品は、現実でも一般的になりつつある生成AIにより作られたAIによるお話という風にとらえることができるのかもしれません。AIにより作られたキャラクター達が人間をもてなし、疲れた人に前に向かせる、ある意味でりせの祖母がかつて疲れてしまった時に不思議の国のアリスの世界に逃げて休んでいたという話をそのまま現代に再現した物という風にとらえることもできそうです。
しかし、本作の不思議の国のアリスに絡む要素がすべて人により作られたものという話はかなり驚く設定。映画を見に行く前に情報を仕入れていなかったこともありましたが、それを抜きにしてもいきなりXRのデバイスが登場した時は驚いてしまいました。
世界を作り、そこで起きる物語すらも、参加した人によって変わり、同じ人でも次に入った時には違う展開が訪れるというとんでもない技術で作られた不思議の国のアリスの施設。りせのおばあちゃんは、とんでもないものを作り上げていったなと思わず思ってしまうお話でもありました。
ちょっと余談ですが、りせがあの世界に入り込んでいる間に、りせの様子を外から見たらどんな感じだったのかというのがちょっと気になってしまう。部屋の中で完結していたのか、はたまた外に本当に飛び出していたのかでしょうか。
SNSという毒林檎
りせがアリスの世界に行った際に、スマートフォンがりんごになってしまい、それをうさぎは危険なものとして扱ったのが本作の話の起こり。そして、その後再びりせがりんごを見つけた時には、それを食べてジャバウォックへと姿を変えてしまう。
このあたりの展開を見て感じたのは、スマートフォンを通じて世界と繋がるSNSから受けてしまう悪影響を、毒として描き、童話の世界で毒として使われやすい毒林檎というモチーフにしたのかなというもの。
基本は可愛いアリスの世界を描き続けた本作ですが、SNSによる人の繋がりと、周囲から見られた自分という点はりせに関わる話の中で重要な点となっていました。
また、本作における青虫は、インフルエンサーとしてぷっくり太った芋虫であるというフォロワーの増減やその重圧に潰されそうになっていました。そんな青虫は、作中美しい蝶に姿を変えましたが、そんな自分をすぐには受け入れられない。おそらくこれも、SNSでもてはやされていた理想の自分の姿に振り回され苦しんでいたが故のもの。しかし、SNSから離れ最後に再び登場した時には、そんな自分の存在をありだと思えるように変化している。
この周囲からの評価に押しつぶされそうになるというのは、りせにも通ずるテーマとなっており、SNSという現代社会を象徴する要素をアリスの世界に持ち込み、それだけが全てではない、という点を描こうとしていたのかもしれません。
全体の感想
今の時代にわざわざ不思議の国のアリスを映像化ということで、何かあるのかな?という疑問もあって見に行ったところもあり、そういう点から本作を見ると少し残念なところもあり。
また、不思議の国のアリスというと、昔読んだときに結構話のアクが強いというか、毒も相応にある印象があったのですが、本作はひたすらにかわいい世界に徹しているというのも気になったところ。ただ、このあたりはこの世界をつくったりせのおばあちゃんが、疲れた人が逃げ込める世界を作ろうとしていたが故に、あえてそういう面は隠したという事なのかもしれません。
とはいえ、アリスの可愛さ、不思議の国の不思議さ、周りからの評価ではなく自分の持つ価値観の大切さ、、それらを描くひたすらに優しい作品でした。アリス自体の可愛さもなかなか魅力的なお話となっていました。
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