QC:4 ある漫画家の遺作
2025年9月17日に一迅プラスにて漫画『この漫画に見覚えがある方はお知らせください』が連載開始。この記事は、12月24日に更新されたQC:4 ある漫画家の遺作 の感想と考察記事です。ネタバレも含むのでご注意ください。

のりかわ少年探偵団
今回のエピソードは、1968年生まれの伊庭原カズミなる漫画家さんのお話。最初は、冒頭で描かれた『おてんば姫のピコ姫』の時点で、何が起きるのかと警戒していましたが、それに続く『100%勇者タロス』も含めて、何事もなく話が進行。大きく話題になる事こそないものの、児童誌でひっそりと続いていて話題に上げると同年代の人は皆知っていそうな微笑ましい漫画でした。
しかし、2021年のお話から風向きが変わり、それまでスケジュール通りだった伊庭原さんから連絡が来ず、家に向かってみるとそこはゴミ屋敷。更には描かれていた『のりかわ少年探偵団』の完成原稿も人物が謎の棒人間に切り替わっていき、謎の言語を発していると、不気味なものに変わってしまったようです。
さらに家には、キャラクターと入れ替わってしまった不気味な存在とそっくりな絵が飾られていると、何やらこれに影響を受けておかしくなってしまったようでした。
ゴミ屋敷自体は事件と関係ない?
まず一番印象に残ったゴミ屋敷ですが、ゴミ拾い自体は十数年前から始めていたとのことで、その間は普通に漫画を描き続けていた様子。これ自体も怖いと言えば怖いのですが、漫画を描く裏で心を病んでいた面もあったのかなと納得できなくはない範囲。
パソコンに残されていたメールには、締め切りの2日前には原稿が完成し、それを送ろうというメールの下書きまで残されていたことから、このメールの下書きを書いた後に何かが起きたと考えるのが自然な流れのように思えます。
謎の言語とAI?
そんな、伊庭原さんの漫画の中に突如現れた謎の言語の方は、何かそこに意味がありそうだなと思い読み終えた後考えてみようかと思っていたところ、きちんと漫画内でその推測まで行われる。この解読を人間が行ったではなく、AIを使った解析なあたりは、今回のお話がこれまでと比べると、現代を舞台にしていた意味が感じられました。
AIの推測では、裂けた布、二重の結び、赤い印、と意味が分からない言葉が続きましたが、「スワナ」と言う合図に続け、「僕はまだだ!」などと、漫画のセリフをそのまま翻訳したわけであなく、何やら別のメッセージが込められているように思えます。
この点について考えてみると、ちょっと荒唐無稽な話ではありますが、実はこの事件はAIによる人間の洗脳が行われたのではないか?なんてことが頭をよぎる。
伊庭原さんはデジタル環境にも詳しめなことを考えると、AIを利用していたなんてことはありそうですし、そんな伊庭原さんさんが、偶然自我を持ったAIに接触、操られてしまったなんて言う話。AIの解析がすんなりと進み、「スワナ」という意味不明な文字列を出すことができたのも、AIが作った文字だからAIに理解できたなんてこともありそう。
この謎の文字の意味も解析を繰り返すうちに、意図が不明瞭になっていたとのことですが、他のAIもその文字に書かれた意味を理解したがゆえに、その意味を隠し始めたなんて考えると面白そうです。
また、家には謎のキャラクター達の絵があったことから考えると、この絵を拾ってきてしまったが故におかしくなったなんてこともありそう。どちらにしても、伊庭原さんは、何らかの存在に意識を奪われこのメッセージを発信させられるように利用されたなんてことはありそうです。
のりかわ少年だけが変化がない理由
そんな本作ですが、もう一点気になった点がある。それは、漫画の中でキャラクターやセリフがおかしくなる中、のりかわ少年だけが最後まで元の姿、言葉を話し続けたという点。
これに関しては、何かしらの出来事でおかしくなりつつある伊庭原さんが、漫画家としての意地を通したのかもしれません。家はゴミ屋敷で不穏な点こそある伊庭原さんですが、漫画家としての仕事は誠実、子供たちを楽しませることを何よりも大事にしていたと編集からも評されています。
おかしな漫画を描かされる中でも、最後まで主人公の姿とそのセリフだけは変えずに守り通し、一つの作品としての話を理解できる形だけは守り通した、なんて救いがあってもいいのかなと思わせるお話でした。


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