ライオンのくにのネズミ
さかとく み雪 による絵本『ライオンのくにのネズミ』の感想記事です。2025年小学生低学年の部の課題図書作品。父親の転勤を気にライオンの国へやってきたネズミの悩みと成長を描く作品の感想記事です。
ネズミの成長を描く
本作の主人公であるネズミは、親の都合でライオンの国へと連れていかれ、全く未知なる世界に一人で立ち向かう事になったキャラクターとなっている。
突然自分の知らない世界に放り込まれ、周囲は自分よりも大きくて強そうで、そして何より怖そうなライオンばかり。そんな世界を当然恐れるが故に、相手が自分に害を持つと考えてしまうのも仕方ない事。
しかし、幸いなことに自分と似ており、言葉も通じるリスと友達になることができるが、そんな彼女すらも自分とは違う価値観の世界を生きてきていた事を知る。
未知なる世界に放り込まれたが故に、広い世界を逆に知ることになったネズミ、そんなネズミが恐れていたライオンに立ち向かうきっかけが、なかなか心に来るものとなっており、恐怖に立ち向かうネズミの勇気と、その結果大事なものを得ることができたという話の流れはなかなかにきれいで、見ていて心が現れるようなお話でした。
作品にマッチした絵の雰囲気
まず絵の雰囲気がとても良い。やわらかいのにどことなく不気味さも感じさせるイラストが本作におけるネズミの孤独な心境を強めていたように思えます。
特に本作に置いて、ネズミが恐怖の対象とするライオンの描写は、そのネズミの視点であるが故か、どことなく不気味さをまとっている。そして、ライオンの国になじもうとする自分の両親に対して恐怖を感じるシーンは、自分を守ってくれる両親が、敵だと思っているライオンになってしまうのではないか、という心情を描き出しており、絵も相まって便りどころのない怖さを感じさせてきました。
とはいえ、ただ怖いだけではなく、同時に優しさも感じさせる絵枯れであるが故に本作のテーマであるだろう部分を強く感じさせてくる作品となっていたように思えます。
最後のネタ晴らしは必要だったのか?
未知なるライオンたちとの交流を通じて、ネズミの成長を描く本作ですが、最後にこの作品の登場人物たちに関する、ちょっとしたネタ晴らしがある。ただ、このあたりは結構好みが分かれそうな展開だと感じました。作品を読んでいる中にでてくる、単語や登場人物の言葉、お弁当の様子なんかを見ていると、この話が何を言いたいのか?という事は少しずつ想像していくことができ、最後のネタ晴らしがなくても、本作の意図は十分伝わっており、必要だったのかな?とつい思ってしまう。
ただ、この感想はあくまで本を読みなれた私によるもの。本来のターゲットである子供たちに対しては、最後のネタ晴らしを通じて、このお話が動物たちの世界の物ではなく、自分たちと身近なお話だったんだと気づかせる意図もあるのかなと思いました。
一人一人の違いがある世界、大きなライオンを初めて見たネズミからすれば、相手を恐れてしまうのは当然。しかし、自分自身の考えという殻の中から見たものがすべてではないという事を伝え、どれほど怖くても人と人とが話し合う事、自分の意思を伝えることの大切さを感じる作品でした。
2025年課題図書一覧
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