2026年4月24日配信開始、つるまかだいよりアフタヌーンにて連載している漫画『メダリスト』の2026年6号にて掲載された『記憶の距離』の感想記事です。ネタバレもあるので注意してください。
記憶の距離
父の言葉
司先生が自らを犠牲にして自分の指導に当たってくれていると思ういのりさん。無自覚に精神的な負担をかけてしまっていることに気付いた司先生は、今の自分の指導方針となった、理想のコーチに何を求めているのか、という点を考え直すべく自らの過去と向き合うことになる。
その始まりの父との会話で意味深なのは、父がいてくれる方が嬉しいと声をかけた過去の司先生に、父が放った言葉。そこだけが、すっぽりと記憶から抜け去ってしまっているように描かれており、この一言が今の司先生を形作るきっかけとなっているように見えました。
ただ、前後の文脈から察するに、お父さんも決して司先生を傷つけるような言葉を彼に向けたわけではないのは分かる。それでもなお、司先生の表情は、この言葉を聞いた直後、そこまで浮かべていた微笑みから真顔の変わってしまっているあたり、この一言には相当な衝撃があったようです。
その後のレジリエンスの話で、嫌な記憶は自然に忘れる、記憶を変化させるという話があったことから考えても、この言葉を思い出せないからこそ、今の司先生を形作るきっかけになっているように思えました。
ヒントは過去の回想に?
その後の現代の会話では、今の司先生が目指す理想のコーチは、自分がつらかった時に欲しかった人物像であることが示唆され、その後の司先生がスケートに打ち込もうとしていた時期の回想が描かれる。
そんな、今回の描写を見ていると、この時期の司先生は特に人に頼るという事に過大な忌避感を持っているように思える。先生からのレッスン、お金が足りず最低限しか受けられない中で、レッスン費を減らす、お金を貸すという話が合ってなおそれを受け入れようとはしない。誰かに頼ってはいけない、すべて自分で何とかしないといけない、そう思い込んでいる姿が見えてくる。そして、この誰かに頼ってはいけないという考え方は、冒頭の父との回想で聞こえなかった言葉との繋がりががあるように思えました。
ただ、今の司先生は、自分にできることを最大限やりながらも、自らに足りない部分は他の人に頼るという事はできており、誰かを頼れないこと自体が今の問題ではないように思える。ある意味、この時の司先生と、今の司先生は、何かが変わっているわけで、その変化のきっかけは、今回の回想最後に出会った、加護羊の母である芽井子さんとの出会い、そして彼女が司先生を支援し始めてくれたことが関係しているのかもしれません。
ただ、仮にそうだとしても、果たして今の司先生の指導の何が、いのりさんを追い詰めているのか、という点はまだはっきりとは見えてこない。
今の司先生の問題は、過剰に献身的に指導に当たってしまう事、そして、そんな指導を受けるから、いのりさんは、先生が自らを犠牲にしているように感じさせているように見える。いのりさんの事を全て自分がカバーしなければならない、そして、いのりさんが失敗すればそれはすべて自分の責任だと感じてしまい、隠そうとしても表情に出てしまう、そんな部分こそが、彼女が絶対に勝たなければいけないという使命感を感じさせる一つの理由になってしまっているのかな、という気もする。
他の先生方を思い返すと、自らの教え子が負けたとしても、そこまで険しい表情を見せたりはしていなかったような気もする。もしかすると、そんな過剰な先生としての責任感こそが、今の司先生の中にある歪みということなのかもしれないな、と思いました。
このあたりから、父の聞こえなかった言葉を想像してみると、もしかすると、当時の弱った父がほんのちょっとだけ見せた弱音だった、なんてことはあったのかも。そんな言葉を聞いてしまったが故に、父を含む誰かに頼ってはいけない、という考えが司先生の中に根付き、それでも助けてほしかった想いが今の先生としての過剰な責任感へと繋がってしまった、なんてことはありそうです。
色々と考えてみましたが、やはりはっきりとした答えは見えてこず、そのあたりは続きのお話の中で明かされることになりそう。司先生を見直す話の中では、自分の視点だけでは自らの過去の歪みは見えてこないという話がありましたが、そんな中次回は羊さんの父と二人きりでの会話となるようですが、つらい時期の司先生を見てきた人物だからこそ、司先生の歪みを見つけることに繋がるのかもしれません。
果たして、次回二人の会話で司先生は何に気付くのか、回想の父が司先生に伝えた言葉は何だったのか。なかなか気になるラストとなりました。


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