2026年5月25日配信開始、つるまかだいよりアフタヌーンにて連載している漫画『メダリスト』の2026年6号にて掲載された『牧師と子羊』の感想記事です。ネタバレもあるので注意してください。
牧師と子羊
司先生が縛られていたもの
連載6周年ということで61ページに渡って描かれたのは、いのりさんに勝たなければならないという気持ちを強いさせてしまった司先生が何に縛られていたのかという話。
今回のお話、1話のエピソードの中に、これでもかと司先生の過去が詰め込まれており、非常に読みごたえがあると同時に、過去の司先生が言えないまま抑え込んできた気持ちがあふれ出てくる展開がとても胸に来るお話となっていました。
特にラスト、瞳さんとの失敗から立て続けに芽衣子さんが亡くなったことが伝えられる流れなんかは、それまで一人でどうにかしようとしてしまっていた司先生がようやく周りに助けを求め、求めていたものを得られた時期だったが故に、自らの不甲斐なさを過剰に感じてしまう事に繋がってしまったように見える。
しかし、その後に続く、夜鷹への憧れから始めたスケートの描写が挟み込まれているのが実に良い感じ。司先生がスケートとの出会いと、スケートと向き合い続けてきた人生がそこに描かれたからこそ、過去の辛さから解放される描写の説得力が増していたように思えました。
加護さん
そんな今回のお話、特に印象に残ったのは、これまでは司先生を支えるために、ひたすらに明るい存在だった加護さんの妻に絡んだ想い、そのかつて抱えていた本心は、今の彼からは想像もつかないものでなかなか衝撃的でした。
しかし、それまでひたすらにいい人のように見えていた加護さんにもそんな暗い気持ちがあった事を知れたのは、司先生がこれまでの人生で絡んできた、いい人達と思っていた大人たちにも、様々な事情があることを理解させるうえで重要な話だったように思える。
加護さんがこうやってかつての本心を打ち明けてくれたからこそ、今回司先生は、過去自分が関わってきた大人たちをただのいい人、とまとめてしまっていた視点から解放されることに繋がったようにも思えました。
加護家の芽衣子さんの事情だったり、自らの父親だったり、かつてスケートを学んだスクールの大人たち、かつて子供だった司先生がが頼ろうとした大人たちも、皆がいい人ではあっても一人の人。当然そこにはそれぞれの事情があり、それゆえにそのすべてを司先生に捧げて守ってくれるという事はなかった。
しかし、司先生からすれば、当時の自分が頼り切れる大人でいてほしかったという願いを無意識に抱えてしまっていた。それが、今の献身的にすべてを生徒に捧げてくれるコーチという、少し歪んだ理想のコーチとしての形を作ってしまっていたようです。
いのりさんにどう向き合うのか?
今回のお話は、司先生の心の中にあった献身的すぎるコーチになってしまった理由を紐解くもの。結果司先生は、過去のしがらみから解き放たれることになりました。しかし、むしろ今の司先生といのりさんが抱える問題を考えると、肝心なのはここから。自らが献身的になりすぎていたが故に、いのりさんに押し付けてしまっていた重圧をどう解き放つのか、という点になっていくはず。
なまじ、二人の関係が一朝一夕のものではないが故に、いのりさんが感じている責任感を解いてあげるのはより難しいものになってしまっているようにも思える。いのりさんも司先生と同じように自分が悪いと責任を内側に求めるタイプの人間であり、ぱっと見の柔らげな態度の割に芯の強さもあるからこそ、それが司先生の言葉であったとしても、他人の言葉で彼女を納得させることはより難しくなってしまっているように思えます。
加護さんの言葉もあり、一歩進むことができた司先生ですが、まだまだ目の前の大きな壁に取り掛かるとっかかりを得た段階。果たしてここからどのような言葉をいのりさんにかけ、彼女の重圧を解き放つのか、次回の展開が気になるラストとなりました。


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