2026年9月4日に公開された映画『SEKIRO: NO DEFEAT』の感想記事です。
この記事には本作のネタバレも含みますので注意してください。
SEKIRO: NO DEFEAT
ハイペースな展開ながらも登場人物の心理描写が光る
2時間ほどの映画ということで、原作ゲームのお話の主要な戦いのみを切り出して描かれたことで、ゲームを知っていると結構飛ばした部分が多く見える本作ですが、ばっさりと切ったことにより空いた時間を登場人物の心理描写に当てることでゲーム版では見えにくい部分もあったそれぞれの登場人物の内面を深く描く作品となっていました。
本作で内面を強く描かれていたのは九郎様。彼の狼に向けた想い、そして、竜胤の御子の力により発生する竜咳がどれほど恐ろしいものなのかをはっきりと映像で示されたことで、不死断ちに向かっていく彼の心理が良く描かれていました。
その中でも、おはぎに絡む祭りのエピソードは、ゲームをやっているとあまり実感することがなかった葦名に住む村人たちとの交流を掘り下げるもの。村の人々との交流、おはぎを振る舞う微笑ましい展開は、FromSoftwareのゲームではなかなか見えない珍しいお話となってたのですが、直後の梟の襲撃により一気に大惨事へと変わってしまう。
突然のえぐい展開により、これがSEKIROであり、フロムのゲームであることを思い出させてきましたが、この出来事があるからこそ、九郎様の不死断ちに向けた決意は確固たるものとなったのも事実。これもまた彼の内面を描く上では必要な展開だったように思えました。
それに対する狼側も、おはぎのお話を通し九郎様との交流を挟んだことで、掟に縛られていた彼が、そこから解き放たれ九郎様を守るという自らの意思を貫くことへの説得力を増させている。原作ゲームでも重要なアイテムであった『おはぎ』、アニメでも二人を繋ぐ大きな役割を果たしていました。
一心と弦一郎
一方、本作では敵である弦一郎と、その祖父である一心との関係も深く掘られていました。その中で強く感じたのは、一心がどれほど弦一郎を大切に思っていたのか、という点。
不死の力を求め暴走する弦一郎を止めてくれたことを狼に感謝した一心ですが、その後内府により滅ぼされるのが見えた葦名を救うべく自らの首を差し出していたことが明らかとなる。弦一郎にその首を斬らせ、それを証に内府に恭順を誓う事で生き延びようとする道を用意し、孫の行く末を守ろうとしていたことが明らかとなる。
ちょっと意外だったのは、弦一郎がその願いを素直に受け入れていたという点。彼であれば最後まで戦い抜くという意志を持っていたのではないかとも思いましたが、祖父の最後、命をかけた願いであるという点を重く取ったが故にそれを受け入れた、祖父への想いあったが故ということなのかも。
しかし、一心の首を届け内府も受け入れかけたその時に、竜咳にて体が消えるというのが何とも苦しい展開。本作では、竜咳の存在がゲーム以上に強く描かれていますが、一心と弦一郎もまた竜咳に全てをご破算にされてしまう。
内府の攻めは続き、一心の願いもむなしく弦一郎は、内府と戦う力を求め九郎の血を狙い狼との最後の戦いへと向かう事になり、さらには、自らの命を賭して一心を蘇らせる。
一心は孫の最後の願いを叶えようと狼と戦う事を選びましたが、本当の願いは孫が生き残ることだっただろうというのが実に切ない。
葦名の衆のためと語り、付け加える様に心の中でつぶやいた一心のためという言葉、そこに彼がどれほど孫を大切に思っていたのかが詰まっているようでした。
ちらりと見える狼と弦一郎の癒し
そんな本作、基本的にはシリアスな空気で進むのですが、笑いを誘うのは原作さながらのぶっきらぼうな対応を見せてくる狼の発言。おはぎを作るのがへたくそだったり、終盤の食べ物に絡む発言だったりと、不思議な可愛さを放ってくるのが印象的。
また、一心との最後の戦いの際に見えた、過去の一心と弦一郎との会話もなかなか印象的。雲を見て変わらぬものはないと弦一郎に伝える一心でしたが、若い弦一郎はそれを理解できずに少し抜けた返事をしている。
この弦一郎の描写、どことなく緩い姿を見せる狼と重なるようにも思え、この二人根っこは似た者同士だったのではないか、もう少し立場が違えばよい友人と慣れていたのではないかと思わせてくる。そして同時に、一心の教えに対してこんな反応を見せてくる孫の存在が、一心からすればどれほど大切なものだったのか、というのも伝わってくるものでした。
とはいえ、弦一郎の結末を思い返すと、その時の一心の教え、一心とて、葦名とて不滅ではないという想いは、結局弦一郎には届かなかったともとれるのがどこか寂しい余韻を残す言葉となっていました。
狼と梟と猫
本作の狼と彼を拾った父である梟との関係を見る中で印象的だったのは、狼の回想で多く登場していた黒猫の存在。幼き狼は、猫と共にいく事を望みながらも、梟に猫を殺されてしまう。
かつて力のなかった狼には、共に生きるという選択を選ぶことすらできなかった猫は、今の狼にとっての九郎様と重なる存在。二つを重ねることで、成長し強くなった狼が、掟という縛りから解き放たれ自らの意思で守る決意を描いているように見えました。
梟との決着をつけた後の狼は、幼い頃と同じ髪型になっていたのも印象的、自らの意思で九郎を守り抜くことを決め、かつての自分を乗り越えたことを表しているようでした。
そんな梟との関係ですが、狼からすれば父親という側面がしっかりとあったというのも切ないところ。遺髪を持ち帰ったり、墓を作って弔ったりと、自らの父と呼べる存在であった梟に対する狼が抱えていた気持ちもまた見えてくる。狼が九郎を選んだ事の重みがより一層際立つシーンとなっていたように思えます。
切ないラスト
最後の展開は、てっきりあのまま二人で旅立って終わりなのかと思いきや、九郎が狼を殺し自らの不死を終わらせるというなかなか切ない終わりとなりました。
しかし、この二人の別れは、最後の旅の最中に差し込まれた焼畑の描写から、古きものは新しき世代に託して死んでいく事が幸せ、というテーマも感じさせてくるもの。
一心は自分の後を託したかった弦一郎が、最後に自らの命を絶ってしまった、未来につなぐことができなかったのに対し、狼は命を絶ち九郎の未来を残した。ある意味で、一心がなせなかったことを狼は成したわけで、最後の戦いの中一心が名付けた『隻狼』の呼び名を捨て『狼』として一心を倒したことにも何か意味が感じられます。
直前までの微笑ましい旅の描写があったが故に、余計に切なさを感じさせるラストシーンとなっていましたが、狼が九郎に託した想いがしみじみと感じられる良いラストでした。












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